場所とそこで暮らす人々が醸し出す「味わい=文化」を大切にすることは、私たちが暮らしていくうえでの原点です。文化は、場所の対象に向き合い、素材や繋がりを大切にしながら、じっくりと磨きあげることによってはじめて、独自の豊かな世界を創造し、経済や生活もそこから生み出されてゆきます。
現代産業社会のなかで、見えなくなりつつある固有の文化(そこに生きる人々をとりまく自然や精神や心・道具の技術)。これらをもう一度掘り起こし、見直し、産業社会とのバランスある関わりをとらえてゆく。言い換えるなら、私たちがいま「生活する文化」とは何か、をしっかりと見据えてゆくために、1986年から『季刊iichiko』という文化学誌を発行しています。
場所に根ざした文化や一人一人=男女のあり方─「民俗」と「精神」のふたつのテーマを軸に真正面から切りこみ、大胆な視点ときめ細かな研究を世界の最先端の知と交流させておこない、さまざまな反響を呼んでいます。
なかでも、「ホスピタリティ」の可能性を示すこと。日本文化・日本語の「述語制」の本質を、伝統工芸・アートの「非分離」の文化技術とともに、日本固有の原理として見出だしたこと。いくつかの「場所」固有のリサーチをなすこと。物語・詩の「非自己」の作用を開示したこと。そして西欧の「主客分離・主制・社会・自己」の原理と、日本の「非分離・述語制・場所・非自己」という異なる原理の共存の可能性を探ることなどによって、文化資本の経済・環境の世界が土台にあることを明らかにしてきました。
1989年から1999年には国際版として『iichiko intercultural』という年報を英仏語で発行。日本の文化を高度な水準で海外に紹介するとともに、世界第一線の研究者による寄稿論文やインタビューを掲載。併せて本誌にも英仏語での掲載を織り込み、世界中の研究者の注目を集めています。さらに1991年には「iichiko文化学賞」を創設。文化学をめぐって特にすぐれた研究成果を生み出している研究者を日本に招聘し、日本人研究者との実りある研究セミナーを行ないました。これらの活動によって1994年には社団法人企業メセナ協議会から「メセナ大賞’94」メセナ企画賞を授賞。企業出版物としての斬新さ、独創性が高く評価されました。
21世紀。世界の大きな転換期にあたり、さまざまな価値観が問い直されているいま、本誌のような学術的・本質的な研究はますます重要性を帯びてきています。創造的な学問デザインとして、新たな文化科学体系を構成しながら、これからも「iichiko文化学」は、人類の文化遺産をさまざまな角度から検証し、今日の文化をじっくりと考え、世に役立つ「意味」を提供しつづけてゆきます。
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